最初に出版されたハードカーバーの「哲学者の密室」には手がでなかった。書店ではじめて見かけたときからタイトルに心魅かれて読みたい、と痛切に思っていたのだけれど。あまりにも本がぶ厚く、文庫か、せいぜい新書でしか、本を読んでなかった当時のぼくには敷居が高すぎた。
シリーズの四作目ということもある。
当時、未読だった「バイバイ、エンジェル」「サマーアポカリプス」「薔薇の女」のことは承知していたし、それを読んでからだな、と思って書店に行くたび、背表紙を眺めていた。
それがノベルズになり、文庫にもなってしまった。なんとか「バイバイ、エンジェル」と「サマーアポカリプス」——実際に読んだのは「アポカリプス殺人事件」という角川文庫版——まで読んだのだけれど。
それが何の気の迷いか、いきなり「吸血鬼と精神分析」を読んでしまった。シリーズ六作目である。三、四、五作を読んでいなくても非常におもしろかったし、問題なかったのだが、ただ一点、違和感があったのが、語り手のナディア・モガールと矢吹駆の関係。たぶんシリーズにしたがって変化しているのだろう。あわてて笠井潔「薔薇の女―ベランジュ家殺人事件」を読んで、ようやく「哲学者の密室」にたどりついた。
あまりに凄い作品で、唖然となってしまった。
何これ。もしかしたらここからさらにレベルアップしていっているのか、このシリーズ。