思考機械 (1977年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
山田風太郎の「人間臨終図鑑」の中に、ジャック・フットレルの項があった。「13号独房の問題」で見事な脱出トリックをもちいて13号独房から抜け出したが、沈没するタイタニック号からは脱出できなかった……というようなことが。
ああ、そういえば、読んでないな、「隅の老人」――。
すっかりかんちがいしていた。
「隅の老人」ではなく、「思考機械」だった。
それでも読んで感心してしまった。おもしろかったのだ。もちろん、時代背景的に現代ではありえないトリック――「紅い糸」とか、あるけれど、どれもたくみで、読ませる。うまい。よくできた短編ミステリだった。
しかもトリックのいくつかはクイズ形式のトリック本で見かけたものもある。
「13号独房の問題」なんて昔、少年マガジン系の漫画雑誌の中の実録風の読み物の中でおめにかかった記憶がある。これが元ネタだったのか。
それにしても「ルールを識り、論理さえ働かせればどんな相手にも勝てる――」なんてあきらかにシャーロック・ホームズを極大化したような探偵が成立したんだな、と思うと感慨深い。ゲーデルの不完全性定理が証明された現代ではこの手の探偵はむずかしい。
「13号独房の問題」は1905年。
ゲーデルの不完全性定理は1931年。
ところで「思考機械」ことヴァン・ドゥーゼン博士ってなんとなく、ヴィトゲンシュタインを想像してしまうのはぼくだけだろうか。