2012年1月22日日曜日

星新一「ちぐはぐな部品」


 記念すべき自炊電子書籍の読了本第一号。

 ほんとうにiPad2で本なんて読めるのか?
 不安になりつつ、300冊ほど自炊し、あらためて読もうとして失敗だったか、と思っていたところだった。なにしろ、iPad2の表面はてかてかで自分の顔が映りこんでしまう。それで思ったより読みづらい。たぶん、明るいところでの読書はきつい。
 Kindleの方がいいかも。
 でも部屋を薄暗くしてなんとか、いけたけど、ちょっと目に悪いかもしれない。

 Kindleはどうだか、知らないけれど、iPad2だとi文庫HD+SugerSync――今、Sugerと打って「すげ」とでて笑った――で、pdfファイルが取りこめる。こいつは便利だ。

 で、星新一「ちぐはぐな部品」。
 積読本の一冊なのでちと古い。
 改訂版ではきっとこのコンピュータの記述とか、書きかえられているんだろうなぁ、とか、思うけれど――実は最初の方を読んでいてあれれ、と思っていた。これってショートショートというよりコントじゃん……。
 って思っていたらですね。どんどん凄くなっていくわけですよ、作品が。「凍った時間」はNHKでテレビ化されていたから当然として「シャーロック・ホームズの内幕」なんて世界中のシャーロキアンが怒るんじゃないか、というほど、ブラックな話で、「神」など絶句、「災害」にいたっては筒井康隆の「おれに関する噂」まんまじゃないか。当然、星新一の方が先だろう。そして、「おれに関する噂」より「災害」の方が好みだわー。
 凄いわ、星新一。
 「おーい、でてこーい」とか世に流布されている傑作のイメージでいたら唖然とするほどブラックな数々。
 凄いわ、星新一。

電子書籍(自炊)



 自炊で電子書籍化しようと考えたのは去年の東日本大震災がきっかけだった。それまでは自炊のことは知っていたけれど、今いち興味がもてず、本を裁断する気にはなれなかった。
 それが地震でひっくり返った。
 文字通り地震で本棚がひっくり返り、もし部屋にいたら本を詰めたプラスチックケースが頭に直撃していたかもしれない、という状況を見て、やばいと思ったのだ。この次は死ぬかもしれん、と。

 それに積読本が文庫で500冊近くあり(もっとかもしれない)、その置き場にこまってダンボール箱に詰めて押し入れにいれていたのだが、そうすると、何を所有しているのか、すっかりわからなくなってしまった。
 パソコンの画面で一覧を見れれば、それもなくなるだろう。
 幸い手元には馬券購入のためのiPad2もある。
 お立ち台に接続した2TBのハードディスクもある。
 それでも先行投資する金をなかなか捻出できず――おもに気持ちの問題――、ようやく年末に一大決心してScanSnapと裁断機を購入した。今度、引っ越しするときにまた、大量の本を(しかも読んでない)運ぶのはもう嫌だ、と考えたのである。

 一ヶ月、毎日、しこしこと自炊してようやく文庫本300冊ほどを電子書籍化したのだけれど――ただ、スキャンするだけならもっと早いのだが、OCRもかけているので――、がっくりくるのは自分の買った本の情けなさ。なんだろうね。何を考えてこんな本を、というのもあるし、同じ本が二冊あったりするし、当時は読みたくてしかたがなかったのに今はもう、という本もけっこうある。
 まさに過去の自分の情けなさの現身。

2012年1月20日金曜日

ジャック・フットレル「思考機械」

思考機械 (1977年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)


 山田風太郎の「人間臨終図鑑」の中に、ジャック・フットレルの項があった。「13号独房の問題」で見事な脱出トリックをもちいて13号独房から抜け出したが、沈没するタイタニック号からは脱出できなかった……というようなことが。
 ああ、そういえば、読んでないな、「隅の老人」――。
 すっかりかんちがいしていた。
 「隅の老人」ではなく、「思考機械」だった。
 それでも読んで感心してしまった。おもしろかったのだ。もちろん、時代背景的に現代ではありえないトリック――「紅い糸」とか、あるけれど、どれもたくみで、読ませる。うまい。よくできた短編ミステリだった。
 しかもトリックのいくつかはクイズ形式のトリック本で見かけたものもある。
 「13号独房の問題」なんて昔、少年マガジン系の漫画雑誌の中の実録風の読み物の中でおめにかかった記憶がある。これが元ネタだったのか。
 それにしても「ルールを識り、論理さえ働かせればどんな相手にも勝てる――」なんてあきらかにシャーロック・ホームズを極大化したような探偵が成立したんだな、と思うと感慨深い。ゲーデルの不完全性定理が証明された現代ではこの手の探偵はむずかしい。

 「13号独房の問題」は1905年。
 ゲーデルの不完全性定理は1931年。

 ところで「思考機械」ことヴァン・ドゥーゼン博士ってなんとなく、ヴィトゲンシュタインを想像してしまうのはぼくだけだろうか。

2012年1月16日月曜日

星野之宣「セス・アイボリーの21日」


 ひさしぶりに星野之宣の「セス・アイボリーの21日」を再読して傑作の感をあらたにした。元々、星野之宣はアベレージの高い作家で、ほとんど外れはない――それどころか、時々、とんでもない傑作をモノにすることがある。もちろんぼくにとってだが。「遠い呼び声」を読んだときにはほんとうに絶句してしまった。
 「セス・アイボリーの21日」もまた。
 ぼくのマイ・フェイバリット・ベストテン(短編)で唯一、複数ランクインしている作家でもあるのだ。まだ十本、ないけど。
 ちなみその作品というのは――。

 星新一「古風な愛」
 西村寿行「刑事」
 山田風太郎「墓掘人」
 諸星大二郎「黒石島殺人事件」
 星野之宣「遠い呼び声」
 星野之宣「セス・アイボリーの21日」
 永井豪「真夜中の戦士」
 堀晃「熱の檻」

 となる。以上、順不同。

2012年1月12日木曜日

山田風太郎「人間臨終図巻」


 いつか読みたいと思っていた一冊――といってもぶ厚い本で、今回はなんと文庫本で四分冊。一冊一冊もかなり厚い。読み終えるのにけっこうな日数がかかってしまって気づくと、年を越えていた。
 最初のきっかけは四巻の解説を書いている筒井康隆が「奇想天外」という雑誌で連載していた書評で(タイトル失念)取り上げていて大絶賛していたことだった。元々、山田風太郎は好きだったし、読んでみたい、と。だれもが大絶賛しているし。
 それにしてもこの年齢で読むと、けっこう来るものがある。ちょっと体調を崩すと、これってもしかしたら、とか思ってしまって。アホな話だけど。
 この本を読むと、自分がどんなに恵まれた時代に生きているのか、と痛感する。すこし前までは人は簡単に結核や梅毒で死んでいるし、ちょっとしたことでも死んでいる。戦争もあったし、極貧というのもある。すくなくとも今の時代、細菌性の病気で死ぬのはまれになっているだろうし、事実、老年になれば、なるほど、戦後の人間が増えてきて――その死因は癌、心臓発作、脳溢血というのがポピュラーになる。
 不思議なのことだけど――この本では死亡年齢順に並べられていることもあって――やはり年齢によって死亡原因に偏りが感じられる。様々な時代の偉人、有名人を取り上げているからきっと統計的な有意性はないのだろうけど、中年あたりで多いのは癌のようだ。若死には結核。老年は心臓発作、脳溢血。
 よくテレビなんかで取り上げられる偉人でも今際のときなんてけっこう悲惨だったりして驚く。ジャクリーン・ケネディなんてオナシスの死後のその遺産をすべて相続したのだとばかり思っていた。たとえば、坂本九がどうして亡くなったか、覚えておいでだろうか。ぼくはすっかり忘れていた。
 ――凄い一冊、いや四冊だった。