森博嗣「喜嶋先生の静かな世界」
もしかしたらマイフェバリットな一冊ということになるのかもしれない。
どうしてぼくはこんなに感銘を受けてしまったのだろう。そんな気分だ。はでなアクションやトリックがあるわけでもないし、殺人が起きるわけでもない。そもそもこれはミステリーではないだろう……。もちろんツイストはあるし、ぼくは逆に最後のツイストは不要だろう、とも思っている。あの一行がなければ、なぁ、と。おしい、と。
もともと森博嗣の小説のファンというわけではなかった。「すべてはFになる」はさすがに読んでいたけれど、あれはまぁ、プログラマーにとってはまんまな「F」だったからなぁ。逆にまさかなぁ、と思いつつ、読み進めたものだった。今なら64ビットが一般的だから老衰ですな。
それでもこの作品は深く感銘を受けた。
どうしてだろう。
何が起きるというわけではないのだけれど、読まされてしまった。本を置くことができなかった。淡々としているにもかかわらず、何かに満たされた気分を味わいつつ、読み進んだ。まさに憧れすら感じる日常だからだろうか。仙人の生活に憧れる俗人という感じ――言葉にすると、どこかちがうような気がするが。
そして、主人公が自分は凄くないんだよ……、と独白するシーンなど、泣きそうになってしまった。