* Sail:CORE 5.3(NEIL PRYDE) Board:NG ACP 260
まさか本栖湖で5.3を使うことになるとは思わなかった。
天気予報では全国的に荒れ模様だという。予想天気図も春の嵐を予感されるものだった。それならわざわざ本栖湖へ行く必要はないのではないか、とさんざん、昨夜は迷ったものだった。湘南、あるいは検見川などのポイントで爆裂で乗れる可能性が高い。問題は2009年12月07日以来、ウィンドをやっていない上に運動すらしていないということだった。しかも失職中のため、通勤という負荷すら身体にかかっていない。
それ以外にもふたつほど、理由があった。
ひとつは中央高速まわりの本栖湖行きを試してみたかった。かつて神奈川に在住していたため、習慣的に東名高速側から山中湖へあがるルートを使っていたのだが、現住所からは中央高速も充分ありだと気づいたのだ。それを試してみたかった。
もうひとつはiPhoneだ。
iPhoneのGPS機能を使ったGPSロガーアプリがある。それでウィンドの航跡を記録してみたい、と以前から考えていたのだ。もちろん iPhone は防水仕様ではないので防水パックにいれる必要がある。それがどのくらい有効から確かめてみる必要があった。なにしろ本体価格が五万ちょっとする iPhone だ。水没させておしゃかにしたら泣くに泣けない。波のあるコンディションはまずありえない。そして、万が一、水が防水パックの中に染みてきてしまったときのことを考えると、淡水が好ましい――とすると、土地勘もある本栖湖以外の選択肢はない。
大月インターを抜けて山梨入りすると、すでに雨が降っていた。
しまったぁ。やはり失敗だぁ、と頭を抱えてしまった。
何しろ、今日は平日で本栖湖にはだれもいないだろう。雨ならなおのこと――雨の中、陰鬱な本栖湖でひとり、ウィンドをするなんて気分が落ち込むこと、おびただしい。しかも今の時期の本栖湖の水は氷水だ。
いっそ南下して海へ出ようか、とも思ったが、とりあえずと本栖湖まで行くことにした。SoftBankの電波が入るか、確認するという理由をつけて。
驚いたことにウィンドサーファーが一組、いた。車からボードを下ろし、セッティングしているところだった。風は充分にあり――というか、ありすぎで湖面が真っ白だった。本栖湖の北端の海岸を通ったとき、波が打ち寄せていたので吹いているとは思っていたのだが。
冬枯れした木々の寒々とした暗い光景の中、白い波だけがあざやかだった。
SoftBankの電波ははいったのでだれも聞いてないだろうが、twitterで「本栖湖なう」とつぶやいてセイルにしばらく悩んだ。本来なら5.7だ。本栖湖はどんなに吹いて見えたところでブローがきついだけで大きめのセイルが鉄則だが、そんなレベルの風じゃなかった。鬼ブローである。
まさか本栖湖で5.3を使うことになるとは――。
セットしたiPhoneをドライスーツの内側にいれて湖へ向かった。
心臓麻痺を起こすなよ、と祈りながら湖水に足を踏み入れる。あまりの冷さにぎゅっと足が縮こまるのが、わかる。鋭い石を踏んだらすぱっと切れてしまいそうだ。ビーチスタートした。即プレーニング。いつものように風が触れるエリアまで突っこんでジャイブ。セイル返しに失敗して沈――しかし、ちょっと嫌な感じ。もしかしたらジャイブができなくなってる? そんな感じ。
ウォータースタートするまで冷水の中にいた。
冷たいというより刺すように痛い。
ビーチにとって返す。やはりジャイブができなくなっていた。腕力がなくてセイルを引きこめないということもあるが、根本的に何かまちがっているような気もする。それを冷静に検討することすら考えつけず、ウォーターしてアウトへふたたび。鬼ブローに遭遇した。
裏風ぇ、裏風ぇ、とつぶやきながら風を逃がしながらぎりぎりと上る。というか、上らせる以外の手段なし。すとんと風がなくなり、沈。本栖湖のガスティぶりはあいかわらずだった。
一度、ビーチに上がり、ダウンを引き増しする。
身体に力がなくてダウンをしっかり引けてなかったのである。
それでセイルが軽くなった。鬼ブローにはさすがに風を逃がす以外なかったが。
問題はアウトで沖に突っこんだときだ。風が抜けてふらふらとしているところに鬼ブローが襲ってくる。何度かいいようにされて沈。
何本か、乗って身体も冷え、エネルギーぃ、とつぶやいておにぎりを食ったのはいいが、次の一本で沈したときに吐きそうになった。
結局、水の冷たさと容赦ないガスティブローぶりに早々に降参して湖からあがった。自分が気づいていないが、きっと肉体は疲れているはずだ、とつぶやきながら。
道具を片付け、帰ろうか、と思ったとき、雨があがり、陽が差してきた。
※EveryTrailの航跡データは手違いで消してしまった……。