Sail:CORE 5.7(NEIL PRYDE) Board:NG ACP 260 Fin:9.5inch
時刻 | 帆走時間 | 帆走距離 | 最高速 | 平均時速 |
---|---|---|---|---|
12:18-12:27 | 9分 | 1.7km | 39.34km/h | 10.93km/h |
12:47-13:22 | 34分 | 3.8km | 36.73km/h | 6.59km/h |
14:15-14:20 | 5分 | 0.9km | 38.15km/h | 10.24km/h |
14:50-15:11 | 20分 | 1.8km | 39.45km/h | 5.26km/h |
15:32-15:51 | 18分 | 1.1km | 31.87km/h | 3.74km/h |
total 89分 9.3km 6.2km/h
——あれ?
道志みちから山中湖へでたときだ。
山の木々と街路樹はわさわさと揺れ、隙間をあけているサイドウィンドウも金切り声をあげている。手前の湖面は黒っぽくなっている程度だったけれど、奥——富士山の裾野側の湖面は白波が立っている。沸騰している、とよく比喩される状態だった。
どうして山中湖がどん吹く。
予想天気図では高気圧が日本列島を覆っていたのに。こんな状況はまったく想像してなかった。山中湖がどん吹いているなんて——ここで乗るか? 一瞬、考えた。山中湖が吹くとき、本栖湖は吹くんだっけ?
本栖湖ではずしたときの帰路で山中湖がどん吹いていた記憶しか、ないのだが——たんにそのときのことが印象に残っているだけのような気がする。以前、一度、どん吹いている山中湖へ出艇したことがある。そのときはものすごく楽しかった記憶がある。広い湖面をがんがん走り回れたのだ。
ただ、山中湖から出艇するのはオフショアになる。
あのときはフローターのスラロームボードだったから浜にもどれたわけで。いちおう風向きは南だから本栖湖も吹いてもおかしくないよなぁ。色々と理由をつけて一路、本栖湖へ向かった。もちろんそれらの色々な理由はすべてあの葡萄はすっぱいにすぎなかったけれど。
本栖湖にでているのは一艇だけだった。
しかし湖面にはすでに南がはいっていて吹いていた。白波も見える。出艇しているのがひとりだけなのはまだ、来ている人間がすくないからだけのようだった。駐車している車は三、四台しか、いない。風は湿り気をふくんだ風で——いつものサーマルという感じではなかった。
天気図にあらわれていない低気圧か、前線があるのかもしれない。
湖上のセイルはインアウトをくりかえしている。
ふとセイルナンバーがついていることに気づいた。midaさんのナンバーだった。浜から手をふると、向こうもわかったらしく、手をふってくれた。
そうこうするうちに人も増えてきた。平均年齢はあきらかに高くて、隣の車から下りてきた男性も、その隣の車から下りてきた男性もぼく同様、白いものが多い白髪まじりの頭だった。
思わず、笑ってしまう。
問題はOptrixのアタッチメントだった。1
まだ、ヘルメットに取り付けていなかった。こんな時間から吹き上がっていることは想定外だった。あわてて取り付けてところ、向きが逆な2ことに——気づいたのは出艇する寸前だった。
そのせいというわけではないのだけれど、最初の一本はヘルメットなしで出艇した。ブローは強烈だった。セイルが引きこみ切れない。身体を立てて風を逃しながらセイリングするしかなかった……。死ぬか、と思った。3
そのあとも強烈なブロー4と、すこんと無風になる強弱に苦しんだ5。風がなくなる寸前、風向きもむちゃくちゃ振れ、急に東向きになったり、西向きになったり。——何の修行だ。
何度も前に倒れた6。風が強すぎてセイルが引きこめなくて走り出せないこともしばしば——。
自分のへたさ加減を思い知られた一日だった。
そのうち、晴れていたのに、白い霧のような雲が頭上にかかり、風も冷たくなる。小雨も降り出す7。しかも沈するとなぜか、牛舎の臭いがした。おれの臭いか? 8
きつかったのは風の冷たさだった。
身体の震えと歯鳴りが止まれなかった。サバイバル本によると、これはまずい兆候だという。低体温症になりかけているのだそうで。いつもなら乗っている時間帯だったけれど、最後の一本と思って出艇した。
すぐに沈した。
寒い。凍える。水はいつもより暖かいぐらいなのに——風が冷たい。このままだと、人生最後の一本になりかねない。
あがった。
セミドライを脱いで着替えて身体があたたまると、湖面ではまだ、吹いて走っている。正直、乗り足らなかったのでまた、出ようか、と思ったけれど、きっとセミドライの保温性のなさにまた、泣きがはいってしまうにちがいなかった。
着替えているときにmidaさんがやってきた。
「あがるの〜」
「体力の限界です」
帰りに通過した山中湖はまだ、どん吹いていた。