地球と一緒に頭も冷やせ! 温暖化問題を問い直す
地球温暖化問題でCO2を減らせ、と意見を持つ人ならなおのこと、この本には目を通すべきかもしれない。アル・ゴアの「不都合な真実」を読むだけではなく。
実はこの本を読んで一番、ショックを受けたのは京都議定書についてのあつかいだった。
その内容についてではない。この本では京都議定書にたいしては一貫して否定的だ。そして、そのことは地球温暖化にたいする著者の態度とともに一貫している。すくなくともこの本を読んでいる間はそれは正しい、と感じさせるし、ぼく個人としては強く同意している。
にもかかわらず、京都議定書について否定的に書かれている箇所にくると自分の中に奇妙な抵抗を感じた……。自分自身、その反応には驚いた。ナショナリズムに嫌悪感を覚える性向があるのにもかかわらず、京都議定書について否定されると心が強い抵抗を示すのだ。なんだ、これは――。おそらく京都ではなく、たとえば、ロンドン議定書などであったのならこの抵抗感はなかったのではないか。
つまり自分が日本人であり、日本で行なわれた国際会議の結果にたいして肯定的にとらえようとするバイアスが強くあった……。
これはぼくだけなのか?
鳩山総理のCO2削減宣言などを見ると、そうではないような気がする。
2010年4月19日月曜日
2010年4月16日金曜日
勝間和代「自分をデフレ化しない方法」
自分をデフレ化しない方法 (文春新書)
以下メモ。
1. 相関があるから原因はデフレというが、相関関係があるから因果関係があるとは限らない。また、デフレというのはある現象に対するラベルだろう。そうであるなら現象は結果である以上、原因とするのはおかしくないか?
2. デフレを脱却し、インフレを起こすためにお金をじゃんじゃんと刷れ。また、日本はずっとデフレだった、という話。何かおかしい。「量的緩和」はどうなる? 「量的緩和」をしていたときですらデフレなのなら今、いくらお金を刷ったところでインフレは起きないのではないか?
3. リーマンショックのときの世界的な金融緩和で日銀は同調しなかった、と非難しているが、記憶では同調していたように思う。また、下げ幅が小さかったというが、当時の日本の金利を考えると、アメリカなどの下げ幅より小さくなるのはある意味、しかたないことではなかったのか?
4. 日銀の金融緩和をもっとつづければ、よかったのではないか、というのは同意。
以下、感想。
まるで自分が日銀総裁をやっていたらこんなことにはならなかったといわんばかりの内容だけれど、どうやら中央銀行によって経済はコントロールできると著者は思っているらしい。個人的には、経済は今や中央銀行によってコントロールできなくなりつつある、と思う。そういう意味では著者は素朴だな、とも思う。羨ましい。
以下メモ。
1. 相関があるから原因はデフレというが、相関関係があるから因果関係があるとは限らない。また、デフレというのはある現象に対するラベルだろう。そうであるなら現象は結果である以上、原因とするのはおかしくないか?
2. デフレを脱却し、インフレを起こすためにお金をじゃんじゃんと刷れ。また、日本はずっとデフレだった、という話。何かおかしい。「量的緩和」はどうなる? 「量的緩和」をしていたときですらデフレなのなら今、いくらお金を刷ったところでインフレは起きないのではないか?
3. リーマンショックのときの世界的な金融緩和で日銀は同調しなかった、と非難しているが、記憶では同調していたように思う。また、下げ幅が小さかったというが、当時の日本の金利を考えると、アメリカなどの下げ幅より小さくなるのはある意味、しかたないことではなかったのか?
4. 日銀の金融緩和をもっとつづければ、よかったのではないか、というのは同意。
以下、感想。
まるで自分が日銀総裁をやっていたらこんなことにはならなかったといわんばかりの内容だけれど、どうやら中央銀行によって経済はコントロールできると著者は思っているらしい。個人的には、経済は今や中央銀行によってコントロールできなくなりつつある、と思う。そういう意味では著者は素朴だな、とも思う。羨ましい。
2010年4月9日金曜日
カーナビとしてのiPhone
ぼくの車にはカーナビがついていない。
たしかに御前崎へ行ったり、本栖湖へ行ったり、湘南へ行ったり、三浦に行ったりするわけだからカーナビは便利かもしれない。車を買うときにたしかにすすめられた。しかし、購入はしなかった。
理由は簡単だ。必要性を感じなかった。
あちらこちらへ行くけれど、それはある意味、日常的に行くのでルートは確立している。カーナビに案内してもらう必要がない。新しいところへ行くにしても前日に地図でルートを想定するのでやはり必要性を感じない――というか、空間的に把握せずにカーナビに従って走るのは気持ちが悪い。
それでもあれば、と思うこともある。
道の迷ったときだ。
現在位置がわからないとき。
しかし、なぁ、そんな、いつ起きるか、わからないときに備えてカーナビを購入する気にはなれずにいた。
それがこの間、本栖湖の帰り――中央高速で帰ったときのことだ。
実はこのルートは初体験だったのだが、それほど心配してなかった。高速は案内をきちんと追っていけば、大概、目的地にたどりつけるものだ。ところがふと気づくと、地下を走っていた。首都高速にはいったところでだ。
しまったぁ、首都高速に新しいところができた、とは聞いていたが。
これかあっ。
案内板はあるので向かっている方向はわかるが、東名高速――ぼくの頭の中ではその方向は正しいのだが、何か、嫌な予感を覚える。
それで思い出したのがiPhoneだ。
iPhoneにはマップというGoogleマップと連動したアプリがある。iPhoneのGPS機能をつかったものだ。起動した。3G回線に接続できたことはラッキーだった。
見ると、現在地は池尻大橋になっている。
想像と全然、ちがう!
激しく動揺してきっと地下なのでGPSの電波が届いていないのだ、と考えた。
この考えはあのぶどうはすっぱい、だった。つまり現状から目をそらしただけ。
GPSの電波が届いていないのなら池尻大橋自体がでてくるわけないじゃないか。
現在地は池尻大橋だ!
ありえない! と思いつつもようやくそのことに気づいた。動揺しながら現状を受け入れて東名行きとは反対のルートを選択した。かなり気持ち的には思いきった判断だった。
というのも想像ではこの先、東名行きの途中から渋谷行きと目黒行きに別れるはず、と思っていたからだ。そこで目黒行きへ向かう。それが目算だった。だからこそ東名行きを選択して走っていた。ところが池尻大橋は目黒に行かず、渋谷行きのルートを選び、なおかつ通りすぎなければ、あらわれてこないはずなのだ。つまり結論! ぼくはまちがっている!
おかげで間一髪のところで帰りのルートへ戻ることができた。あのままだったら東名に乗り入れるしかなくなっていた。
これもiPhoneのおかげだ!
そうしてこの機能があるならカーナビはやはりいらないじゃないか、と思った次第。
たしかに御前崎へ行ったり、本栖湖へ行ったり、湘南へ行ったり、三浦に行ったりするわけだからカーナビは便利かもしれない。車を買うときにたしかにすすめられた。しかし、購入はしなかった。
理由は簡単だ。必要性を感じなかった。
あちらこちらへ行くけれど、それはある意味、日常的に行くのでルートは確立している。カーナビに案内してもらう必要がない。新しいところへ行くにしても前日に地図でルートを想定するのでやはり必要性を感じない――というか、空間的に把握せずにカーナビに従って走るのは気持ちが悪い。
それでもあれば、と思うこともある。
道の迷ったときだ。
現在位置がわからないとき。
しかし、なぁ、そんな、いつ起きるか、わからないときに備えてカーナビを購入する気にはなれずにいた。
それがこの間、本栖湖の帰り――中央高速で帰ったときのことだ。
実はこのルートは初体験だったのだが、それほど心配してなかった。高速は案内をきちんと追っていけば、大概、目的地にたどりつけるものだ。ところがふと気づくと、地下を走っていた。首都高速にはいったところでだ。
しまったぁ、首都高速に新しいところができた、とは聞いていたが。
これかあっ。
案内板はあるので向かっている方向はわかるが、東名高速――ぼくの頭の中ではその方向は正しいのだが、何か、嫌な予感を覚える。
それで思い出したのがiPhoneだ。
iPhoneにはマップというGoogleマップと連動したアプリがある。iPhoneのGPS機能をつかったものだ。起動した。3G回線に接続できたことはラッキーだった。
見ると、現在地は池尻大橋になっている。
想像と全然、ちがう!
激しく動揺してきっと地下なのでGPSの電波が届いていないのだ、と考えた。
この考えはあのぶどうはすっぱい、だった。つまり現状から目をそらしただけ。
GPSの電波が届いていないのなら池尻大橋自体がでてくるわけないじゃないか。
現在地は池尻大橋だ!
ありえない! と思いつつもようやくそのことに気づいた。動揺しながら現状を受け入れて東名行きとは反対のルートを選択した。かなり気持ち的には思いきった判断だった。
というのも想像ではこの先、東名行きの途中から渋谷行きと目黒行きに別れるはず、と思っていたからだ。そこで目黒行きへ向かう。それが目算だった。だからこそ東名行きを選択して走っていた。ところが池尻大橋は目黒に行かず、渋谷行きのルートを選び、なおかつ通りすぎなければ、あらわれてこないはずなのだ。つまり結論! ぼくはまちがっている!
おかげで間一髪のところで帰りのルートへ戻ることができた。あのままだったら東名に乗り入れるしかなくなっていた。
これもiPhoneのおかげだ!
そうしてこの機能があるならカーナビはやはりいらないじゃないか、と思った次第。
2010年4月8日木曜日
2010年4月8日(木):本栖湖FUNビーチ:晴れ
*Sail:CORE 5.7(NEIL PRYDE) Board:NG ACP 260
予想天気図を見たときには完璧だ、と思った。
この気圧配置ならまちがいなく、本栖湖は吹く。そう考えての本栖湖入りした。さすがにこの時期、釣り人以外、だれもいず、ひとりきりだった。
FUNビーチ周辺は枯山水のような風景で寒々しい。すぐ近くの山肌に見える白いものは雪だろうか……。湖面は無風で鏡のように真っ平らだった。
しかし、風がはいってくるのはこれからだ。
南風がはいってきたのは一時をすぎたころだっただろうか。
のんびりと道具をセッティングして風がさらに吹き上がるのを待つが、なかなか吹き上がらない。白波は見えるのだが、思ったよりも弱い。
しかたなく、手持ち無沙汰ということもあって出艇してみることにした。
湖水はあいかわらず暴力的な冷たさだった。
水に足を入れただけでじんっと痺れ、指が自分のものでなくなった。接着したウィンナーソーセージのようだ。感覚がない。
風はやはり足りなかった。
延々とタックをくりかえし、湖面を往復した。
もしかしたらこのままじゃないか、と嫌な予感がした。
しかも沈すると、鼠蹊部に痛みが走るほどの冷たさにちょっと恐怖を覚えた。内臓がおかしくなるんじゃないのか?
そのうち、風がすこしだけあがった。
短かい黒いブローがはいりはじめる。しかし、それでもプレーニングしない。前のフットストラップに強引に足を入れることはできるが、テイルはひきずったままだ。しつこく往復してあきらめてビーチにあがったところで皮肉なことに湖面の様子が一変した。
ブローが連続してはいってきた。
うそっ、と思いながらもエネルギー補給のために車にもどってバナナを食べた。
ふたたび、湖にでる。
思わず地団駄を踏みそうになる。
微妙に風が足りん。
もうちょいでプレーニングできるのに、という風だった。どんだけ重いねん、おれ――というか、セイル、6.7にすりゃよかった。
それでもきつめのブローのおかげで何本か、プレーニングした。
湖面を一本、走り切ることは一度もできなかったけれど、それでも左右で二本づつ、ジャイブすることができた。その最後のジャイブ――スタボーからのジャイブで奇妙な感触を得た。
もともとスタボーからのジャイブは失速ぎみになる癖があったのだけれど――ポートからより下手ということだ――、ジャイブの半ばでほんのちょっと前に体重を持っていったところ、後半のターンが伸びるのがはっきりとわかった。あっ。これは発見かもしれない。ところがそれ以降、ジャイブできるほどの風に恵まれなかった――つまりプレーニングしなかった。このころにあらわれたもうひとりセイラーはスラロームらしくしっかり、プレーニングしていたのだが。
まったくどんだけ重いねん、おれ。
いくら風があると思って出艇しても半プレーニングがせいぜい。そのうち、歯ががちがち鳴りはじめるほど、寒くなってくる。日が翳っていた。風はありそうでぼくにはプレーニングしない風――。
さすがに根性が尽きた。
上がることにした。
着替えて道具を片付けてさあ帰ろうか、と本栖湖を見ると、かなりのブローがはいっているのが見えた。
うわあ。
Map your trip with EveryTrail
セーリング時間:2時間24分
セーリング距離:7.2km
平均艇速:3km/h
最高艇速:55.4km/h
予想天気図を見たときには完璧だ、と思った。
この気圧配置ならまちがいなく、本栖湖は吹く。そう考えての本栖湖入りした。さすがにこの時期、釣り人以外、だれもいず、ひとりきりだった。
FUNビーチ周辺は枯山水のような風景で寒々しい。すぐ近くの山肌に見える白いものは雪だろうか……。湖面は無風で鏡のように真っ平らだった。
しかし、風がはいってくるのはこれからだ。
南風がはいってきたのは一時をすぎたころだっただろうか。
のんびりと道具をセッティングして風がさらに吹き上がるのを待つが、なかなか吹き上がらない。白波は見えるのだが、思ったよりも弱い。
しかたなく、手持ち無沙汰ということもあって出艇してみることにした。
湖水はあいかわらず暴力的な冷たさだった。
水に足を入れただけでじんっと痺れ、指が自分のものでなくなった。接着したウィンナーソーセージのようだ。感覚がない。
風はやはり足りなかった。
延々とタックをくりかえし、湖面を往復した。
もしかしたらこのままじゃないか、と嫌な予感がした。
しかも沈すると、鼠蹊部に痛みが走るほどの冷たさにちょっと恐怖を覚えた。内臓がおかしくなるんじゃないのか?
そのうち、風がすこしだけあがった。
短かい黒いブローがはいりはじめる。しかし、それでもプレーニングしない。前のフットストラップに強引に足を入れることはできるが、テイルはひきずったままだ。しつこく往復してあきらめてビーチにあがったところで皮肉なことに湖面の様子が一変した。
ブローが連続してはいってきた。
うそっ、と思いながらもエネルギー補給のために車にもどってバナナを食べた。
ふたたび、湖にでる。
思わず地団駄を踏みそうになる。
微妙に風が足りん。
もうちょいでプレーニングできるのに、という風だった。どんだけ重いねん、おれ――というか、セイル、6.7にすりゃよかった。
それでもきつめのブローのおかげで何本か、プレーニングした。
湖面を一本、走り切ることは一度もできなかったけれど、それでも左右で二本づつ、ジャイブすることができた。その最後のジャイブ――スタボーからのジャイブで奇妙な感触を得た。
もともとスタボーからのジャイブは失速ぎみになる癖があったのだけれど――ポートからより下手ということだ――、ジャイブの半ばでほんのちょっと前に体重を持っていったところ、後半のターンが伸びるのがはっきりとわかった。あっ。これは発見かもしれない。ところがそれ以降、ジャイブできるほどの風に恵まれなかった――つまりプレーニングしなかった。このころにあらわれたもうひとりセイラーはスラロームらしくしっかり、プレーニングしていたのだが。
まったくどんだけ重いねん、おれ。
いくら風があると思って出艇しても半プレーニングがせいぜい。そのうち、歯ががちがち鳴りはじめるほど、寒くなってくる。日が翳っていた。風はありそうでぼくにはプレーニングしない風――。
さすがに根性が尽きた。
上がることにした。
着替えて道具を片付けてさあ帰ろうか、と本栖湖を見ると、かなりのブローがはいっているのが見えた。
うわあ。
本栖湖
Map your trip with EveryTrail
セーリング時間:2時間24分
セーリング距離:7.2km
平均艇速:3km/h
最高艇速:55.4km/h
2010年4月5日月曜日
2010年4月3日土曜日
死
横断歩道を渡り切った瞬間、交差点の方からバンッと凄い音がした。車がぶつかった音。iPhoneで音楽を聞いていたにもかかわらず、はっきりと聞こえた。反射的にそっちを向くと、車が自分に突っこんでくるところだった。タイヤのスキッド音――やばい。死んだ、と思った。テレビの衝撃映像みたいだ、とも――。
うしろからはおばさんの悲鳴が聞こえた。
衝撃映像で車が店内に突っこむシーンが頭に浮かんだ瞬間、すぐ目の前でガードレールがひしゃげ、車が凄まじい衝撃音をあげて停止した。ほとんど音ではなく、振動を身体で感じた。
車のものらしい破片が自分の回りに飛び散り、道路に転がる。そのうちのひとかけらはうちに帰ったあとで手にしていたバッグの中から出てきた。
歩道に乗りあげなかった車を見てよく飛びこえてこなかったな、と思いながらiPhoneのイヤホンをはずした。
飛びこんできたら避けることは不可能だった。
どうしようもない。
瞬間、何の理由もなく、人は死ぬのだ、と思った。
運転手はだいじょうぶだろうか、とようやく思い至り、一瞬、血まみれの運転手が頭を過った。そして、この様子を携帯で写真を撮ったらさすがに不謹慎だろうな、という考えも頭の中を通りすぎた。
失職中だから死んだ方がましだったかもしれない、とブラックな冗談を思いついたが、さすがに話す相手はいなかった。
潰れたフロントを見ながらガソリンはこぼれてなさそうだな、と判断して――白い蒸気はラジエターのものだろう――、運転席をのぞくと、運転手はしまった、という顔をして携帯電話をかけようとしていた。サイドウィンドウのノックしてだいじょうぶですか、と聞いたが、ちょっとわずらわしそうな顔をされてしまった。
左手を見ると、タクシーが歩道に突っこんでいる。
おそらく二台が交差点で衝突したのだろう。そして、一台がぼくの方へ突っこんできた――。
まだ、だれも集まってきていない。
タクシーの方へ行き、中をのぞきこむと、ちょうどエアバックがしぼんだところで運転手はしまったぁ、事故ってしまったぁ、という慚愧の念にたえないという顔だった。こちらの運転手も携帯で電話をかけようとしていた。声をかけても見ようともしないが、とりあえず、ふたりの運転手は無事なことが確認できてすこしほっとした。
騒いでいるおばさんたちの方を見ると――たぶん悲鳴をあげたおばさん――、携帯を取り出して事故を撮影していた。それでちょっとくやしい気がしてぼくも何枚か、撮影した。
結局、自分が死ぬところだったのだ、と恐怖を多少、感じたのはだいぶん経ってからだった。起きたことを思い出しているうちに死んでもおかしくなかった、と。
突っこんできた車はガードレールと――もしかしたらスピンしていて縁石に横から当たったのかもしれない――それで歩道まで乗りあげなかったのだろう。もし乗りあげていたら無事ではすまなかった。
そうなっていたら何の理由もなく、何の因果もなく、あのタイミングであそこにいたためにぼくは死んでいた。
あらためて撮影した写真を見ると、状況はちがっていて車は歩道に乗り上げていた……。
うしろからはおばさんの悲鳴が聞こえた。
衝撃映像で車が店内に突っこむシーンが頭に浮かんだ瞬間、すぐ目の前でガードレールがひしゃげ、車が凄まじい衝撃音をあげて停止した。ほとんど音ではなく、振動を身体で感じた。
車のものらしい破片が自分の回りに飛び散り、道路に転がる。そのうちのひとかけらはうちに帰ったあとで手にしていたバッグの中から出てきた。
歩道に乗りあげなかった車を見てよく飛びこえてこなかったな、と思いながらiPhoneのイヤホンをはずした。
飛びこんできたら避けることは不可能だった。
どうしようもない。
瞬間、何の理由もなく、人は死ぬのだ、と思った。
運転手はだいじょうぶだろうか、とようやく思い至り、一瞬、血まみれの運転手が頭を過った。そして、この様子を携帯で写真を撮ったらさすがに不謹慎だろうな、という考えも頭の中を通りすぎた。
失職中だから死んだ方がましだったかもしれない、とブラックな冗談を思いついたが、さすがに話す相手はいなかった。
潰れたフロントを見ながらガソリンはこぼれてなさそうだな、と判断して――白い蒸気はラジエターのものだろう――、運転席をのぞくと、運転手はしまった、という顔をして携帯電話をかけようとしていた。サイドウィンドウのノックしてだいじょうぶですか、と聞いたが、ちょっとわずらわしそうな顔をされてしまった。
左手を見ると、タクシーが歩道に突っこんでいる。
おそらく二台が交差点で衝突したのだろう。そして、一台がぼくの方へ突っこんできた――。
まだ、だれも集まってきていない。
タクシーの方へ行き、中をのぞきこむと、ちょうどエアバックがしぼんだところで運転手はしまったぁ、事故ってしまったぁ、という慚愧の念にたえないという顔だった。こちらの運転手も携帯で電話をかけようとしていた。声をかけても見ようともしないが、とりあえず、ふたりの運転手は無事なことが確認できてすこしほっとした。
騒いでいるおばさんたちの方を見ると――たぶん悲鳴をあげたおばさん――、携帯を取り出して事故を撮影していた。それでちょっとくやしい気がしてぼくも何枚か、撮影した。
結局、自分が死ぬところだったのだ、と恐怖を多少、感じたのはだいぶん経ってからだった。起きたことを思い出しているうちに死んでもおかしくなかった、と。
突っこんできた車はガードレールと――もしかしたらスピンしていて縁石に横から当たったのかもしれない――それで歩道まで乗りあげなかったのだろう。もし乗りあげていたら無事ではすまなかった。
そうなっていたら何の理由もなく、何の因果もなく、あのタイミングであそこにいたためにぼくは死んでいた。
あらためて撮影した写真を見ると、状況はちがっていて車は歩道に乗り上げていた……。
2010年4月2日金曜日
2010年4月1日(木):本栖湖ファンボードビーチ:雨
* Sail:CORE 5.3(NEIL PRYDE) Board:NG ACP 260
まさか本栖湖で5.3を使うことになるとは思わなかった。
天気予報では全国的に荒れ模様だという。予想天気図も春の嵐を予感されるものだった。それならわざわざ本栖湖へ行く必要はないのではないか、とさんざん、昨夜は迷ったものだった。湘南、あるいは検見川などのポイントで爆裂で乗れる可能性が高い。問題は2009年12月07日以来、ウィンドをやっていない上に運動すらしていないということだった。しかも失職中のため、通勤という負荷すら身体にかかっていない。
それ以外にもふたつほど、理由があった。
ひとつは中央高速まわりの本栖湖行きを試してみたかった。かつて神奈川に在住していたため、習慣的に東名高速側から山中湖へあがるルートを使っていたのだが、現住所からは中央高速も充分ありだと気づいたのだ。それを試してみたかった。
もうひとつはiPhoneだ。
iPhoneのGPS機能を使ったGPSロガーアプリがある。それでウィンドの航跡を記録してみたい、と以前から考えていたのだ。もちろん iPhone は防水仕様ではないので防水パックにいれる必要がある。それがどのくらい有効から確かめてみる必要があった。なにしろ本体価格が五万ちょっとする iPhone だ。水没させておしゃかにしたら泣くに泣けない。波のあるコンディションはまずありえない。そして、万が一、水が防水パックの中に染みてきてしまったときのことを考えると、淡水が好ましい――とすると、土地勘もある本栖湖以外の選択肢はない。
大月インターを抜けて山梨入りすると、すでに雨が降っていた。
しまったぁ。やはり失敗だぁ、と頭を抱えてしまった。
何しろ、今日は平日で本栖湖にはだれもいないだろう。雨ならなおのこと――雨の中、陰鬱な本栖湖でひとり、ウィンドをするなんて気分が落ち込むこと、おびただしい。しかも今の時期の本栖湖の水は氷水だ。
いっそ南下して海へ出ようか、とも思ったが、とりあえずと本栖湖まで行くことにした。SoftBankの電波が入るか、確認するという理由をつけて。
驚いたことにウィンドサーファーが一組、いた。車からボードを下ろし、セッティングしているところだった。風は充分にあり――というか、ありすぎで湖面が真っ白だった。本栖湖の北端の海岸を通ったとき、波が打ち寄せていたので吹いているとは思っていたのだが。
冬枯れした木々の寒々とした暗い光景の中、白い波だけがあざやかだった。
SoftBankの電波ははいったのでだれも聞いてないだろうが、twitterで「本栖湖なう」とつぶやいてセイルにしばらく悩んだ。本来なら5.7だ。本栖湖はどんなに吹いて見えたところでブローがきついだけで大きめのセイルが鉄則だが、そんなレベルの風じゃなかった。鬼ブローである。
まさか本栖湖で5.3を使うことになるとは――。
セットしたiPhoneをドライスーツの内側にいれて湖へ向かった。
心臓麻痺を起こすなよ、と祈りながら湖水に足を踏み入れる。あまりの冷さにぎゅっと足が縮こまるのが、わかる。鋭い石を踏んだらすぱっと切れてしまいそうだ。ビーチスタートした。即プレーニング。いつものように風が触れるエリアまで突っこんでジャイブ。セイル返しに失敗して沈――しかし、ちょっと嫌な感じ。もしかしたらジャイブができなくなってる? そんな感じ。
ウォータースタートするまで冷水の中にいた。
冷たいというより刺すように痛い。
ビーチにとって返す。やはりジャイブができなくなっていた。腕力がなくてセイルを引きこめないということもあるが、根本的に何かまちがっているような気もする。それを冷静に検討することすら考えつけず、ウォーターしてアウトへふたたび。鬼ブローに遭遇した。
裏風ぇ、裏風ぇ、とつぶやきながら風を逃がしながらぎりぎりと上る。というか、上らせる以外の手段なし。すとんと風がなくなり、沈。本栖湖のガスティぶりはあいかわらずだった。
一度、ビーチに上がり、ダウンを引き増しする。
身体に力がなくてダウンをしっかり引けてなかったのである。
それでセイルが軽くなった。鬼ブローにはさすがに風を逃がす以外なかったが。
問題はアウトで沖に突っこんだときだ。風が抜けてふらふらとしているところに鬼ブローが襲ってくる。何度かいいようにされて沈。
何本か、乗って身体も冷え、エネルギーぃ、とつぶやいておにぎりを食ったのはいいが、次の一本で沈したときに吐きそうになった。
結局、水の冷たさと容赦ないガスティブローぶりに早々に降参して湖からあがった。自分が気づいていないが、きっと肉体は疲れているはずだ、とつぶやきながら。
道具を片付け、帰ろうか、と思ったとき、雨があがり、陽が差してきた。
※EveryTrailの航跡データは手違いで消してしまった……。
まさか本栖湖で5.3を使うことになるとは思わなかった。
天気予報では全国的に荒れ模様だという。予想天気図も春の嵐を予感されるものだった。それならわざわざ本栖湖へ行く必要はないのではないか、とさんざん、昨夜は迷ったものだった。湘南、あるいは検見川などのポイントで爆裂で乗れる可能性が高い。問題は2009年12月07日以来、ウィンドをやっていない上に運動すらしていないということだった。しかも失職中のため、通勤という負荷すら身体にかかっていない。
それ以外にもふたつほど、理由があった。
ひとつは中央高速まわりの本栖湖行きを試してみたかった。かつて神奈川に在住していたため、習慣的に東名高速側から山中湖へあがるルートを使っていたのだが、現住所からは中央高速も充分ありだと気づいたのだ。それを試してみたかった。
もうひとつはiPhoneだ。
iPhoneのGPS機能を使ったGPSロガーアプリがある。それでウィンドの航跡を記録してみたい、と以前から考えていたのだ。もちろん iPhone は防水仕様ではないので防水パックにいれる必要がある。それがどのくらい有効から確かめてみる必要があった。なにしろ本体価格が五万ちょっとする iPhone だ。水没させておしゃかにしたら泣くに泣けない。波のあるコンディションはまずありえない。そして、万が一、水が防水パックの中に染みてきてしまったときのことを考えると、淡水が好ましい――とすると、土地勘もある本栖湖以外の選択肢はない。
大月インターを抜けて山梨入りすると、すでに雨が降っていた。
しまったぁ。やはり失敗だぁ、と頭を抱えてしまった。
何しろ、今日は平日で本栖湖にはだれもいないだろう。雨ならなおのこと――雨の中、陰鬱な本栖湖でひとり、ウィンドをするなんて気分が落ち込むこと、おびただしい。しかも今の時期の本栖湖の水は氷水だ。
いっそ南下して海へ出ようか、とも思ったが、とりあえずと本栖湖まで行くことにした。SoftBankの電波が入るか、確認するという理由をつけて。
驚いたことにウィンドサーファーが一組、いた。車からボードを下ろし、セッティングしているところだった。風は充分にあり――というか、ありすぎで湖面が真っ白だった。本栖湖の北端の海岸を通ったとき、波が打ち寄せていたので吹いているとは思っていたのだが。
冬枯れした木々の寒々とした暗い光景の中、白い波だけがあざやかだった。
SoftBankの電波ははいったのでだれも聞いてないだろうが、twitterで「本栖湖なう」とつぶやいてセイルにしばらく悩んだ。本来なら5.7だ。本栖湖はどんなに吹いて見えたところでブローがきついだけで大きめのセイルが鉄則だが、そんなレベルの風じゃなかった。鬼ブローである。
まさか本栖湖で5.3を使うことになるとは――。
セットしたiPhoneをドライスーツの内側にいれて湖へ向かった。
心臓麻痺を起こすなよ、と祈りながら湖水に足を踏み入れる。あまりの冷さにぎゅっと足が縮こまるのが、わかる。鋭い石を踏んだらすぱっと切れてしまいそうだ。ビーチスタートした。即プレーニング。いつものように風が触れるエリアまで突っこんでジャイブ。セイル返しに失敗して沈――しかし、ちょっと嫌な感じ。もしかしたらジャイブができなくなってる? そんな感じ。
ウォータースタートするまで冷水の中にいた。
冷たいというより刺すように痛い。
ビーチにとって返す。やはりジャイブができなくなっていた。腕力がなくてセイルを引きこめないということもあるが、根本的に何かまちがっているような気もする。それを冷静に検討することすら考えつけず、ウォーターしてアウトへふたたび。鬼ブローに遭遇した。
裏風ぇ、裏風ぇ、とつぶやきながら風を逃がしながらぎりぎりと上る。というか、上らせる以外の手段なし。すとんと風がなくなり、沈。本栖湖のガスティぶりはあいかわらずだった。
一度、ビーチに上がり、ダウンを引き増しする。
身体に力がなくてダウンをしっかり引けてなかったのである。
それでセイルが軽くなった。鬼ブローにはさすがに風を逃がす以外なかったが。
問題はアウトで沖に突っこんだときだ。風が抜けてふらふらとしているところに鬼ブローが襲ってくる。何度かいいようにされて沈。
何本か、乗って身体も冷え、エネルギーぃ、とつぶやいておにぎりを食ったのはいいが、次の一本で沈したときに吐きそうになった。
結局、水の冷たさと容赦ないガスティブローぶりに早々に降参して湖からあがった。自分が気づいていないが、きっと肉体は疲れているはずだ、とつぶやきながら。
道具を片付け、帰ろうか、と思ったとき、雨があがり、陽が差してきた。
※EveryTrailの航跡データは手違いで消してしまった……。
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