予想天気図を見たときには完璧だ、と思った。
この気圧配置ならまちがいなく、本栖湖は吹く。そう考えての本栖湖入りした。さすがにこの時期、釣り人以外、だれもいず、ひとりきりだった。
FUNビーチ周辺は枯山水のような風景で寒々しい。すぐ近くの山肌に見える白いものは雪だろうか……。湖面は無風で鏡のように真っ平らだった。
しかし、風がはいってくるのはこれからだ。
南風がはいってきたのは一時をすぎたころだっただろうか。
のんびりと道具をセッティングして風がさらに吹き上がるのを待つが、なかなか吹き上がらない。白波は見えるのだが、思ったよりも弱い。
しかたなく、手持ち無沙汰ということもあって出艇してみることにした。
湖水はあいかわらず暴力的な冷たさだった。
水に足を入れただけでじんっと痺れ、指が自分のものでなくなった。接着したウィンナーソーセージのようだ。感覚がない。
風はやはり足りなかった。
延々とタックをくりかえし、湖面を往復した。
もしかしたらこのままじゃないか、と嫌な予感がした。
しかも沈すると、鼠蹊部に痛みが走るほどの冷たさにちょっと恐怖を覚えた。内臓がおかしくなるんじゃないのか?
そのうち、風がすこしだけあがった。
短かい黒いブローがはいりはじめる。しかし、それでもプレーニングしない。前のフットストラップに強引に足を入れることはできるが、テイルはひきずったままだ。しつこく往復してあきらめてビーチにあがったところで皮肉なことに湖面の様子が一変した。
ブローが連続してはいってきた。
うそっ、と思いながらもエネルギー補給のために車にもどってバナナを食べた。
ふたたび、湖にでる。
思わず地団駄を踏みそうになる。
微妙に風が足りん。
もうちょいでプレーニングできるのに、という風だった。どんだけ重いねん、おれ――というか、セイル、6.7にすりゃよかった。
それでもきつめのブローのおかげで何本か、プレーニングした。
湖面を一本、走り切ることは一度もできなかったけれど、それでも左右で二本づつ、ジャイブすることができた。その最後のジャイブ――スタボーからのジャイブで奇妙な感触を得た。
もともとスタボーからのジャイブは失速ぎみになる癖があったのだけれど――ポートからより下手ということだ――、ジャイブの半ばでほんのちょっと前に体重を持っていったところ、後半のターンが伸びるのがはっきりとわかった。あっ。これは発見かもしれない。ところがそれ以降、ジャイブできるほどの風に恵まれなかった――つまりプレーニングしなかった。このころにあらわれたもうひとりセイラーはスラロームらしくしっかり、プレーニングしていたのだが。
まったくどんだけ重いねん、おれ。
いくら風があると思って出艇しても半プレーニングがせいぜい。そのうち、歯ががちがち鳴りはじめるほど、寒くなってくる。日が翳っていた。風はありそうでぼくにはプレーニングしない風――。
さすがに根性が尽きた。
上がることにした。
着替えて道具を片付けてさあ帰ろうか、と本栖湖を見ると、かなりのブローがはいっているのが見えた。
うわあ。
本栖湖
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セーリング時間:2時間24分
セーリング距離:7.2km
平均艇速:3km/h
最高艇速:55.4km/h