2011年9月20日火曜日

マット・リーヴス監督「モールス」


 まったく何の予備知識もなく、観たのがよかったのかもしれない。深い感銘を受けた。とくに原題の「LET ME IN」というのがいい。象徴的ですばらしい。
 結局、マット・リーヴス監督「モールス」はマイフェイバレットな一本になった映画なのだけれど――なにしろ、主演女優のクロエ・グレース・モレッツが気に入り、あわてて未見だった「キック・アス」を観たほどだ。いやぁ、ヒットガール、いいですねぇ――、時代設定がわずかに疑問だった。1980年代――なぜ? 観ているときはこれはラストにかかわるのではないか、と予想していたのだが、そうではなかった。
 非常によくできた映画で、それなのにわざわざ1980年代にした理由はなぜだろう。つらつら考えた末、おそらくルービックキューブのせいだ、と気がついた。作品の中でルービックキューブが重要な役割を果すし、それを使用するのなら流行した1980年代に設定するしかないだろうからだ。たぶん原作がそうなのだろう。
 そのあたりを確認したくて、原作はまだ未読だが、リメイク元になったトーマス・アルフレッドソン監督「ぼくのエリ 200歳の少女」を観た。
 細かいところはもちろんちがうのだが、ハリウッドのリメイクとは思えないほど、ほぼ元ネタに忠実にリメイクしていて驚いた。しかもできは個人的にだけど「モールス」の方が格段にいい。細かい修正――ストーリーを整理して、夾雑物を排除しているという印象がある。せつなさの純度を高めている、というか。
 途中からずっとこりゃあ、「ポーの一族」だ、と思っていたほどだ。

2011年9月9日金曜日

ルネ・クレマン監督「狼は天使の匂い」


 マイフェイバリットムービーのひとつ――だった。
 観たのは高校のとき。深夜放送のテレビでだった。感動し、以来、もう一度、観たいと思っていたのだけれど、なかなか、観る機会がなかった。何度か、ググってみたりして探したことはあるのだが、どこにもない。ビデオ化されていたが、売り切れ。レンタルビデオ屋でも見つけることはできなかった。
 DVD化もされてなかった。
 それが最近、ググったときにDVD化されていた。
 個人的には高額。あちらこちらのレンタルムービーをチェックしてみたが、レンタルされてなかった。しかたない。Amazonでポチッとな。

 もちろん不安はあった。
 なかなかDVD化されてなかったということは世間的な評価はそれほど高くないということだからだ。それでも村上龍や山田正紀がエッセイやあとがきで映画の名前を出していたりいる。そんなに外れではないはずだ。
 外れではなかった。
 しかし、何十年も美化された感動を納得させるほどではなかった。
 初見でなかったということも原因だろう。
 ラストのシーンは鮮烈に印象に残っているのでそこへストーリーが運ばれていくのはわかっていた。まったく覚えていないエピソードがいくつもあったが、多くのシーンは観ると、思い出した。
 高校のときは予備知識はまったくなかった。偶然、観た。そのときとはやはり、ちがった印象を受けてもしかたないだろう……。
 それともテレビ放映のときはざくざくとカットされていてそれが逆にストーリーを不明確にしてファンタジックな印象を与えていたのだろうか。
 もうマイフェイバリットではないのだろうか。

 しかし、今、こうして愚痴りながらも断片的なシーンを思い出しているうちに、しみじみと、やはり悪くないな……、と幸せな気分にひたっているのだが。

2011年9月6日火曜日

中原俊監督「12人の優しい日本人」


 まちがいなく、自信をもって人に勧めることができる映画だ。
 とてもおもしろい。
 にもかかわらず、途中で何度も見るのをやめようか、と思ったことか。
 12人の主要登場人物のだれにも感情移入ができず、肌がざらつくような感じがあったからだ。つまり不愉快だった。もちろん、話はおもしろいのだ。だから思わず、見つづけてしまったのだけれど。
 じゃ、それがこの映画の欠点かというと、そうではなく、感情移入できないような「優しい日本人」を配置したのは脚本の三谷幸喜の周到な計算だろう。あの配役は必要なことだった。
 この手の映画は最後の三分の一で次々に話がひっくり返っていくのが、快感なのだが、それを期待していたからこそ、最後まで見つづけることができた。そうでなかったらもしかしたら見るのをやめてしまったかもしれない。
 何しろぼくはネット配信でこの映画を見ていたのだから。
 映画館、あるいは劇場などのどこかの小屋で見ていたのなら多少、不愉快であっても、見つづけるのが辛く感じられても最後まで見るだろう。それは観劇するために、劇場の中に束縛されているからだ。
 ところが、ネット配信、あるいはテレビ放映だと、中断する敷居が低くなってしまう。そうやって考えると、次々にアクションが起きて観客の気持ちを引いていくハリウッド風のつくりはある意味、必然なのかもしれない。

2011年9月4日日曜日

荒木飛呂彦「荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論」

荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論
 荒木飛呂彦が選ぶホラー映画 Best20 で「アイ・アム・レジェンド」第4位。
 正直、えーっ、と思ってしまった。ぼくの中ではあの映画はがっかりだよ映画のひとつだからだ。あれが4位? 解せん。ところが「アイ・アム・レジェンド」について書かれていることはいちいち、納得で――最終的には荒木飛呂彦自身も不満点を上げている。ネタばれなのでボカして書いているが、まさにその点でぼくはその映画にはがっかりしてしまったのだった。
 「ヒッチャー」がBest20 に入ってなかったのは不満だったけど、中で褒められていたのでこれはちょっとうれしかった。

 それにしても同年代ということもあって映画のセレクトがまさに覚えのあるものばかりで――「エクソシスト」「エイリアン」「スクリーム」とか、なんともいえない気分になる。ああ、やっぱり同世代なんだな、この人は、と。
 まぁ、大部分はタイトルだけで観てない映画ばかりなのだが――ホラー映画だけでこれだけの数なら映画全体ならどんだけ観てんねん、と思ったが――、どれも観てみたい、と思わされてしまった。
 そういや、スティーヴン・キングの「死の舞踏」を読んだときもそんな気にさせられてしまったのであった。