海でも吹いていそうなのに、本栖湖へ行ってしまった。
本栖湖が確実だろう、と思ったのだ。しかし、1時すぎに到着してドラゴンビーチを見たとき、一艇しか、でていなかった。しかも風は入っていない。あまりに想定外だったので頭の中が真っ白になってしまった。
途中の山中湖ですら吹いていたのだ。
ファンボードビーチには三、四艇がでていた。
走っている瞬間もあれば、止まっている時もある。
いちおうブローが入っているらしいのでほっとして道具をセッティングした。ドラゴンビーチで風が入ってないように見えたのはたまたまだったのだろう。
カメラ(iPhone)をマスト上部に取り付け、湖へ出た。
ブローはきつめなのに、幅が狭く、薄い。走り出しづらい。それでもプレーニングしたところでひさしぶりにキックジャンプをしてみた。あまりよい感じではなかったが、いちおうジャンプした。
突然、左足親指に痛みを感じる。爪先——というか、爪だ。ジャイブでどたばたしたとき、かるく剥してしまったらしい。ビーチにあがって確認してみると、爪が割れている。肉がある部分まで逹っしていて血もでていた。
おれのウィンド人生、平穏無事はないのか。
ところが今日はそれだけではすまなかった。
セイルのセッティングが悪く、何か、うまくない。
うまくない、うまくない、とつぶやきながらブームをあげたり、ダウンを引き増したりしてもあまり改善はしなかった。コンディションもあるのだろう。ブローは白波ばんばんなのだが、うまくつかめない感じ。
何度めかのプレーニングでふとレイルトゥレイルをやってみたら後ろのフットストラップが切れかけた。今日は呪われているな。
セイリング中に切れてしまうとやっかいなので、他のボードのフットストラップを取りつけ直した。がんがん、ボードのボトムを石塊にぶつけながら。
今日の本栖湖はいつにもまして乗りづらいコンディションだった。
ブローはオーバー。なのにすこんとなくなる。しかも風がけっこうころころと振れていた。ぼくはヘルメットにカメラを後方に向けてつけてみたり——どんな映像がとれるのか、試してみたかったのだ——、一時間ほどぶっとおしで撮りつづけたりとか、したせいでiPhoneの容量がなくなってしまった。
この段階でまともなジャイブをした記憶がない。
今日、いかにだめだめ君だったか、よくわかる。
四時ぐらいに今日はこれで終わりという雰囲気になった。ファンビーチにきていた半分ぐらいのセイラーがそれで片付けはじめた。それらのセイラーの姿が見えなくなったころ、フィーバータイムがはじまった。
うまく乗れなかったが、わりあいいい感じのブローだった。
小雨が降ったりしたが。
そうしていたら——。
もげた。
カメラ(iPhone)用のハウジングが、である。
落下防止のためのリグコードが取りつけてある上の部分でぽっきり、と。当然、iPhoneは湖底に沈んでしまった。
実はヘルメットにつけかえたとき、ヒンジにヒビが入っていることには気づいていたのだが——、リグコードがあるからだいじょうぶだろう、と油断していた。まさか、リグコードをつけてある上の部分で壊れるとは。ずっとマスト上部につけたまま、沈をくりかえしていたのだから壊れて当然だったのかもしれない。最後は岸近くで前にセイルごと倒れた。
iPhoneが消えたことに気づいたのはその時だった。
さすがにそのまま、セイリングをするほど、根性はなく、空にしたペットボトルをアクアスコープがわりにして湖底を見たり、コンタクトレンズを外して眼鏡で潜ってみたりしたけれど、見つからず——というか、ほんとうに気づいたところに落ちたのか?
それでも足がとどかない深さだったが。
いっそ浩庵荘からスキンダイブの道具を借りてこようか、とも思ったのだが、びしばしジャイブしているエリアの上、ブローで湖面が荒れている。
この無駄なあがきをしているときが一番、風が安定していていいコンディションだった。それはわかっていたのだが、探さずにはいられなかった。ようやくあきらめて湖上に復帰したのだが、二本ほど往復してじわじわとiPhoneを失くしたことにショックを感じはじめ、それであがってしまった。
小雨が降っていたが、天気雨で本栖湖の湖上には虹がかかっていた。