2011年11月15日火曜日
ジョン・ラフリー「別名S・S・ヴァン・ダイン: ファイロ・ヴァンスを創造した男」
笠井潔の「バイバイ、エンジェル」――ずっと実際に読むまでハードボイルド小説だと思っていたことは内緒だ――の中で、ファイロ・ヴァンスの名前があらわれたときはやたらとうれしかった。というのもクイーンは、クイーン問題もあって名前をよく聞くのに、その先行者たるヴァン・ダインの名前は忘れ去られているように思えたからだ。ぼくが中学生のとき、熱中した名探偵ファイロ・ヴァンスの名前はすっかり。
12本の長編ミステリのうち、11本は読破した。
「ベンスン殺人事件」から読み出し、「カナリヤ」「グリーン家」と読み進み、熱狂し、そして、「僧正殺人事件」――。「グレイシー・アレン殺人事件」で挫折するまで。最後の「ウィンター殺人事件」が創元文庫で出版される前にぼく自身の興味が本格ミステリから日本SFの方に興味をうつってしまったということもある。
「ケンネル殺人事件」以降のヴァン・ダインはほとんど記憶に残っていなことが今回の伝記で判明して愕然とした。「カジノ殺人事件」などタイトルすら忘れていた。「競馬場殺人事件」が「ガーデン殺人事件」のことであることに気づくまでしばらく時間がかかった。もちろん前期の傑作群のこともはるか、記憶の彼方なのだが――。ストーリーはほとんど思い出せないのだが、なぜか、ファイロ・ヴァンスがセザンヌの絵を買おうと見ているシーンのことはくっきりと覚えていて、ぼくはすっかり古典的な絵を、と思っていたのだが、ヴァン・ダインの当時はセザンヌというのは古典ではなく、現代画だったのだ、ということをこの伝記で知った。当たり前といえば、当たり前なのだが。
ウィラード・ハンティントン・ライト。1939年4月11日没。享年51歳。
すでにぼくはその年齢に逹っしようとしている。