2010年6月8日火曜日

池田信夫「希望を捨てる勇気――停滞と成長の経済学」/佐々木俊尚「電子書籍の衝撃」

希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学
電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)

 電子書籍というのが文芸だけではないことは承知しているが、それでもどうしても気になるのは小説の動向だ。それは心の片隅で小説家になれないものか、と思っているからだが、しかし、電子書籍の衝撃で規模が縮小してしまったら出版社は新人を発掘しようとするだろうか。また、そのとき、デビューするというのはどういう形になるのか……。
 セルフパブリッシングという形ならプロアマは関係ないという話もあるが、そのとき、売れるのはやはり固定客をつかんでいるプロになるだろう。「ロングテール」にあるように売り上げがゼロから無限大までの間に無数の書き手の作品が並ぶことになるだろうが、大部分のアマチュアはテールになる。もちろん、アマチュアの中からも売れる人間はでてくるだろうし、その可能性はゼロではないが、それは可能性はゼロでないというだけの話だ。
 状況は絶望的なように思えた。
 ところが希望があることに気づいたのは、池田信夫の「希望を捨てる勇気――停滞と成長の経済学」を読んだ直後に、佐々木俊尚の「電子書籍の衝撃」を読んだときだった。その順番で読んだのはまったくの偶然だったのだが、そうでなければ、そんな文脈は生まれなかった。
 それは次のようなことだ。
 「希望を捨てる勇気――停滞と成長の経済学」によると、1990年代後半のアメリカの劇的な復興は80年代後半に吹き荒れたLBOに原因がもとめられる、という。AT&Tなどの大企業に固定化されていた人材が企業の分割、整理によって外へ放出されることにより、その人々がIT業界の革新を加速したのだ、と。
 そうであるなら電子書籍による衝撃によって多くの出版社から内部に固定化されていた優秀な人々が労働市場へ吐き出されるのだ。その中から何か新しいものを生み出す人がでてくるかもしれない。
 それはすくなくとも既得権益が固定されてしまい、硬直化した他の業界にくらべれば、はるかに希望のある状況ではないか――。ぼく個人にはほとんど関係のない希望だが。