2009年5月3日日曜日

人生を変えた一冊?――ポール・グレアム「ハッカーと画家」


 個人的なプログラミングではすっかり、Emacs Lispしか使わなくなってしまった。いわゆるelicpである。DOSのころはperlとか、FreeBSD環境ではshellプログラミングとか、rubyとか、ちょこちょこと使っていたのにだ。
 今はすっかりelispオンリーだ。
 その程度のことしかやらないということもあるし、大概のことはelispでできてしまうということもある。しかし、なんといっても一番、大きな理由はelispがLispだということだ。なんか、トートロジーですが。
 FreeBSD 2.0.5をパソコンにインストールしていた頃からEmacsは使ってはいたけれど、elispでプログラミングするまでは至らなかった。それがLispに目醒めたのはポール・グレアム「ハッカーと画家」の中の「普通のやつらの上を行け」などのエッセイを読んでからだった。
 だって「プログラミング言語はその力において差がある」だぜ。その中でLispの優位な点が九点、上げられ、それが得心がいったし、目から鱗が落ちた。まさに「既にLispに興味を持っている人の後押しをしようということなんだ」というとおりに後押しされてしまったわけだ。
 自分のパソコンにschemeやLispを入れてみたけれど、それほど大したことをするわけではないし、ほとんど作業はEmacsでやっているのだからelispを使うことの方が理にかなっている。というわけで今は意識的にelispを使っている――もちろん、elispはダイナミックスコープだし、末尾再帰はサポートされてないし、と不満はなくはないけど。ま、やっていることが大したことではないからね。


 問題なのは他の言語でプログラミングしたくなくなってしまったことだ。他の言語を使うと、とてもストレスを感じてしまう。三文業務系プログラマーとしてはこれは由々しき事態だ。Lispを使う仕事なんてない。Lispを知る前はなんて気楽でいれたことだろう。でももう元には戻れない。もうぼくはプログラマーとしてはだめだ。まぁ、歳だし。
 この変化はこの五年ほどのことなのだが、プログラミング以外でも急激な変化がこの五年に、あった――なんと株式投資をはじめてしまったのだ。しかもサブプライムローン問題で景気後退が起きる前年ぐらいの高値のときにだ。おかげで今は惨憺たる有様で、含み損を抱えてキンチョールされた蠅が全身を痙攣させている状態なのだが。
 しかし、どうして株式投資に目醒めたんだろう……。
 けっこうそのことが不思議でたまらなかった。直接的には板倉雄一郎のホームページに出会ったことが大きいのだけれど、十年前に出会っていたら株式投資をはじめていただろうか、と自問した結果、はじめてないような気がした。当時、社会、経済というものにまったく興味を持てないでいたのだから。嫌悪感すら抱いていた。
 それがどうして興味を持てるようになったのだろう。
 歳を喰ったということもあるだろう。しかし、何か心理的な壁を崩すようなきっかけがあったんじゃないのか――と。
 そして、気づいた。
 「ハッカーと画家」だ……。
 ポール・グレアムはLispを武器としてViawebを立ち上げ、起業に成功しているのだ。Lispというプログラミングへの興味から読んでいたが、実はその裏で無意識のうちに起業というものにたいする心理的な閾値を下げるような情報を受け取っていたらしい。


 すると、「ハッカーと画家」はぼくにとってまさに人生を変えた一冊ということになるかもしれない。
 キンチョールされて全身を痙攣させている蠅のような人生に、だが。