まさに星新一の凄さを再認識させられた一本だった。
しかし。
とも思う。このアイデアを今、得たとしたら書けただろうか、と。
書けなかっただろう。
そういう意味では「無料の電話」は過去に書かれたからこそ、現在に書かれたものではないからこそ、成立しえた。それは作品を保たせようと時事を排し、必死に細部に手を入れていた星新一のことを思うとなんと皮肉なことだろう。ショートショートの核ともいえるアイデア自体に時限爆弾が仕掛けられていた、ということではないか。
しかし、それでも「無料の電話」はおもしろい、と語り伝えられるだろう。
それは過去に書かれたという事実があるからだ。読者はそれを念頭に読んでいるかぎり、「無料の電話」のおもしろさはこれからもかわらないだろう。むしろぼくのようにそのことを念頭に置いていたからこそ、すごさを認識することもありえる。
それでも星新一は懸命に細部に手を入れ、作品を保たせようとしていた。
どうしてだろう。それがなぜか、哀しい。
星新一の、あの執着にはあまり意味はなかったのだろうか、と。